脊柱側弯症
通常の人間で見られる、生理的な弯曲は頚椎では前弯(前方向に弯曲)、胸椎は後弯(後方へ弯曲)、腰椎は前弯となっています。これらのバランスが崩れた場合に体幹バランスの悪化や背部痛、腰痛などの疼痛を引き起こします。
脊柱が正面から見た冠状面で10度以上弯曲したものが側弯と定義されます。最も多く見られる思春期特発性側弯症では小学高校学年から中学生の女子に多く発症し、その多くは無症候性です。そのため症状がない時期に早期に側弯を発見し、専門医による適切な診療を受けることが重要となります1。成長期の側弯症では、身長の伸びなどの成熟度を検討し治療方法を選択します。

側弯症は原因がわからない特発性以外にも先天性や神経性、筋原性、神経線維腫症性など数多くの原因が存在します。単純X線による評価のみではなくMRIなどの追加検査が必要になる場合があります。最も多く見られる特発性側弯症では生活習慣との関係は見られず、原因は遺伝子ではないかと言われています。
重度の脊柱変形によりすぐに手術治療が必要な場合には適切な医療機関への紹介を行います。将来進行する可能性のある側弯症なのかしっかりと経過を観察すること、必要なタイミングで装具治療を開始することが必要となります。

大人の側弯は従来まで変性側弯症と言われていましたが、側弯以外にも後弯(前かがみの変形をきたすこと)などの複雑な脊柱変形をきたすことから
“成人脊柱変形”という病名が使用されることとなりました。高齢社会により多くの高齢者が日常生活動作の困難を訴えるために、その病態が着目されてきています。多くは成長期に発生した軽微な側弯症が遺残し、主に50歳台以上で加齢とともに椎間板や椎間関節の変性変化が進行するためにカーブが悪化します。成人脊柱変形では体幹バランスの不良だけではなく、小児期の側弯症とは異なり痛みを伴う臨床症状、すなわち背部痛、腰痛、坐骨神経痛などの下肢痛を伴うことが報告されています。痛みに対する内服治療やリハビリテーション、加齢に伴う骨粗鬆症が存在している場合には骨粗鬆症治療が必要となります。脊柱変形が重度の場合には成長に伴う改善は期待できないために手術治療が必要になる場合があります。

側弯症外来は火曜日午後に予約制で行っています。土曜日など、一般診療日に合わせてきていただくことも可能ですが、装具治療が必要な場合には国家資格である義肢装具士による側弯症装具の作成が不可欠となります。側弯症の豊富な治療経験のある医師が治療法について説明し治療を担当します。重症例で手術が必要な場合には、大学病院など高度な医療を提供する医療機関を紹介します。

一般社団法人 日本側弯症学会より引用
装具治療
アメリカのNational Institutes of Healthの援助により行われた大規模研究3により、側弯症に対する装具治療は有効性が非常に高いエビデンスレベルで証明されました。この研究結果により側弯症検診とその治療について考え方は大きく変化することとなりました。無症状の側弯症を運動器検診により早期発見を行い、適切なタイミングで適切な装具治療を行うことがとても重要です。装具治療により重症例への進行が抑制され,手術が必要になる重症化のリスクを軽減できることが明らかになっています。
側弯症治療装具について

側弯症治療装具はCAD(Computer Aided Design)の技術を用いて、側弯により3次元的に変形した脊柱をより生理的な姿勢に近づけるように作成し矯正位の保持を行います。
参考文献
- 岡田 英次朗、松本 守雄 【日常診療で役立つ小児整形外科の知識】体幹の疾患 特発性側弯症 小児科診療(0386-9806)78巻4号 Page523-528(2015.04)
- 岡田 英次朗、渡辺 航太、松本 守雄 【小児整形外科の過去・現在・未来】(Part3) 臨床<現在> 最近の側弯症治療のトピックス 主に思春期特発性側弯症について Bone Joint Nerve(2186-1110)7巻4号 Page613-616(2017.10)
- Weinstein SL et al:Effects of bracing in adolescents with idiopathic scoliosis. N Engl J Med 369:1512―1521, 2013